日本人を対象とした、「あなたが幸福を感じるときはどんな時か」というアンケートに対して、最も回答数が多かったのは「病気がないこと」そして「おいしく飲食ができること」でした。病気や飲食と深い関係があるのが咀嚼力や消化吸収能力です。
咀嚼力が低下すると、さまざまな健康問題が引き起こされる可能性があります。特に、胃への負担が高まるため、肉や魚を主としたたんぱく質の摂取および消化吸収に対して悪影響が出る可能性があります。また、噛みにくい感覚を持っているだけでも人は無意識に硬い食べ物を避ける傾向があるため、食生活にもアンバランスが生じる可能性があります。食材選びの偏りが長期間にわたって続くと生活習慣病が発症する可能性が高まります。

また、咀嚼能力が低下している歯並びの場合には、食材が口腔内に停滞しやすくなることで、むし歯や歯周病のリスクも高まります。お口の中に磨きの腰が見られる場合に、歯磨きの仕方やテクニックに問題があると思いがちですが、実は歯並びが整っていて咀嚼が正常に行えるだけでも歯がきれいになります。十分な回数を噛んで食べるようにすれば唾液の分泌が促進されて、より食塊（しょっかい）がまとまってお口の中の汚れが綺麗になります。噛まないことで、口の中の食べ物の残りが増え、細菌が繁殖しやすくなるためです。

前述のとおり、咀嚼力の低下は消化にも大きく影響します。食べ物を十分に噛むことは、消化酵素を効率よく働かせるためにも重要です。少ない咀嚼で飲み込んでしまうと、消化不良を起こし、胃腸に負担をかけてしまいます。消化不良は栄養吸収の障害を引き起こし、これにより体全体の健康が損なわれることもあります。実際に当院にて血液検査による栄養解析を行っていますが、咀嚼能力の低下や胃の消化吸収機能の低下（低胃酸）の状態が、お体のたんぱく質の消化吸収に影響を及ぼしていることを示す所見が得られることもあります。

さらに、咀嚼力が低下することで、食事を楽しむことができなくなり、メンタル面にも影響を及ぼします。食事は社交の一環であり、人と食事を囲むこと自体が楽しみであったり、コミュニケーションの手段となります。噛む力が弱いことで、食べにくい食事ばかりを選んでしまい、結果として食事の種類が偏りがちになります。これが、栄養バランスの崩れにつながり、また、食事の満足度が低下することで、精神的な健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

また、咀嚼力の低下は全身健康にも影響を与えます。例えば、咀嚼によって顔の筋肉が動き、顎の発達が促されます。この顎の動きは、姿勢にも影響を与え、体全身のバランスを保つ上で重要な役割を果たします。咀嚼力が弱まることで、顎の筋肉が発達せず、結果的には首や肩の痛みを引き起こす原因になることもあります。また、咀嚼という運動は脳に対して刺激を与え、脳からの刺激が体に伝わることで運動能力の向上などに寄与することもあります。

このように、咀嚼力が低下することは、健康な生活を維持するために非常に大きな問題であると言えます。そのため、自分の咀嚼力を定期的にチェックし、必要に応じて対策を講じることが重要です。

咀嚼能力が低い場合にはそれを高めるために矯正治療を検討することも有効です。歯が欠損している場合には、入れ歯（義歯）、ブリッジ、インプラントなどいずれかの方法を用いてよく噛める状態をつくるとよいでしょう。矯正治療と義歯・ブリッジ・インプラントなどの治療の併用も非常に有効となる場合があります。そもそも歯が欠損している方は歯並びやかみ合わせがよくないために力の過剰負担が起きて歯を失ってしまっていることも少なくないからです。矯正治療を施したうえで歯科治療を行えば、根本的なリスクを下げた状態で治療を行うことができるため長期的に安定した予後が期待できます。

当院では、非抜歯矯正やインプラント、義歯、ブリッジなど全ての治療をご提案できます。